【登録日】
2008/02/14
【更新日】
2009/05/21

基本情報

通番 9598 報告書番号 2007-関西-T020
情報区分

トラブル情報

報告書状態 最終報告
事象発生日時 2008年 02月 04日 事象発生日時(補足) 工認板厚を満足しないと判断
会社名 関西電力株式会社 発電所 高浜発電所3号
件名 蒸気発生器1次冷却材入口管台溶接部での傷の確認について
国への法令報告根拠 実用炉規則19条の17 国際原子力
事象評価尺度(INES)
0−

発生箇所および発生時の状況

事象発生時の状況  高浜発電所3号機(加圧水型軽水炉 定格電気出力87万キロワット、定格熱出力266万キロワット)は、平成19年11月23日からの第18回定期検査中、国内外プラントでの応力腐食割れ事象を踏まえ、予防保全として、600系ニッケル基合金が使用されている蒸気発生器(以下、「SG」という)の1次冷却材出入口管台溶接部内表面(計6箇所)の残留応力低減のためショットピーニング*1工事を実施することとし、工事実施
前の管台溶接部内表面の表面状態確認のため、渦流探傷試験*2(以下、「ECT」という)を実施した。その結果、入口管台溶接部においてA−SG7箇所、B−SG16箇所、C−SG9箇所に有意な信号指示が認められた。なお、出口管台溶接部については、各SGとも有意な信号指示は認められなかった。
 今回のSG出入口管台溶接部のECTについては、平成19年11月16日付NISA文書「蒸気発生器出入口管台溶接部の内表面の点検実施について」(NISA−163b−07−3)に基づく点検にも対応している。
 ECTで有意な信号指示が認められた箇所について、超音波探傷試験*3(以下、「UT」という)を実施した結果、A−SGで2箇所、B−SGで6箇所、C−SGで3箇所に有意な信号指示が認められた。
 これら有意な信号指示が認められた箇所のうち傷の最大深さは、A−SGで約9mm、B−SGで約15mm、C−SGで約9mmと評価され、当該部の板厚約78mmから傷の深さを差し引いた板厚(A−SG約69mm、B−SG約63mm、C−SG約69mm)が、電気事業法に基づく工事計画認可申請書に記載の75.26mmを下回ると判断した。

*1:ショットピーニング
小さい金属玉を溶接部表面に当てることにより、溶接部表面の残留応力を低減させる手法。
*2:渦流探傷試験
高周波電流を流したコイルを対象となる配管等に接近することで対象物に渦電流を発生させ、対象物の欠陥に起こった渦電流を電気信号として取り出すことで欠陥を検出する検査。
*3:超音波探傷試験
超音波を使って金属等の内部にある有害な傷を検出する検査。

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事象発生箇所
【設備】  原子炉冷却系統設備  【系統】  一次冷却系
【機器1】 熱交換器・冷却器装置>蒸気発生器  【部品1】 その他(配管*) , その他(入口管台)

原因

原因調査の概要  SG入口管台溶接部の傷に対する調査を実施した。
 なお、傷の観察に当たり、UTで有意な信号指示が認められた箇所の内、傷の深さが最大のB−SG No.11指示部については、型取観察およびスンプ観察*4を実施し、傷の深さが2番目のB−SGNo.14指示部については、型取観察を実施した。
(1)型取観察結果
・傷の周辺ではグラインダ施工による仕上げ跡が確認された。
・傷の下方にバフ施工の跡が確
認された。
(2)スンプ観察結果
・割れは600系ニッケル基合金の周溶接部および肉盛溶接部に認められ、ステンレス鋼のセーフエンドや管台のステンレス内張り部には達していなかった。
・割れは複数の割れが集まったもので、概ね軸方向に認められ、全長は約23.5mmであった。
・割れの周辺に直径約7mmの手直し溶接と思われる溶接の跡が認められた。
・割れはデンドライト境界に沿っており、これまで手直し溶接補修跡が認められた国内外の600系ニッケル基合金溶接部で確認されている1次冷却材環境下における応力腐食割れ(以下、「PWSCC」という)と同様の様相が認められた。

*4:スンプ観察
損傷部の表面にフィルム等を貼り付け転写し、これを顕微鏡で観察する。

(3)製造・運転履歴調査結果                     
a.製造履歴調査
高浜発電所3号機のSGは、昭和55年9月〜昭和58年3月に製作されており、当時の工事・検査記録および関係者への聞き取りにより製造履歴を調査した。
(a) 工事・検査記録による調査
・SG入口管台溶接部の製造手順は、日本原子力発電(株)敦賀発電所2号機(以下、「敦賀発電所2号機」という)と同様であることを確認した。
・溶接士は十分な経験を有していることを確認した。
・手直し溶接の記録は確認されなかった。
(b) 関係者への聞き取りによる調査
・SG入口管台とセーフエンドとの溶接部内表面の標準的な仕上げ方法は、敦賀発電所2号機のSGと同様でグラインダ施工(研削)およびバフ施工(3往復)であることを確認した。
・バフ施工後に、メーカ社内での浸透探傷試験*5(以下、「PT」という)で有意な指示が認められた場合等に手直し溶接を実施する可能性があることを確認した。
・手直し溶接を実施した場合は、敦賀発電所2号機のSGと同様でグラインダ施工(研磨)にて仕上げている可能性があることを確認した。

*5:浸透探傷試験
試験体表面に開口している傷を目で見やすくするため、可視染料の入った高浸透性の液を浸透させた後、余分な浸透液を除去し、現像剤により浸透指示模様として観察する方法。

b.運転履歴調査
高浜発電所3号機の運転開始(昭和60年1月17日)から第18回定期検査開始(平成19年11月23日解列)までの運転履歴を調査した。
(a)1次冷却材温度・圧力
プラント運転中に発生した過渡変化を伴う事象としては、原子炉自動停止事象3件、原子炉手動停止事象1件、出力抑制事象2件であった。また、これらの過渡変化において、異常な温度・圧力変化がないことを確認した。
(b)水質管理状況
運転開始以降の水質は、保安規定で定める水質基準を満足しており、塩素等の有害な元素について管理されていることを確認した。
(4)溶接部の材料確認結果
ミルシート(溶着金属)の調査を実施し、材料は600系ニッケル基合金であること、およびその成分構成が設計仕様(規格値)どおりであることを確認した。
(5)設計・工事記録確認結果
工事計画認可申請書の強度計算書等により、延性割れ、疲労割れ等が発生する可能性のないことを確認した。
(6)表面加工状態確認試験(モックアップ試験)結果からの表面残留応力評価
スンプ観察結果および製造履歴調査結果から、内表面の仕上げ方法が敦賀発電所2号機と同様にグラインダ施工(研磨)であると推定されることから、表面残留応力を推定する目的で、敦賀発電所2号機で実施した表面加工状態確認試験(以下、「モックアップ試験」という)結果と今回の型取観察で確認した内表面の状態とを比較した。
今回の型取観察結果においては、割れの周辺でグラインダ施工(研磨)によるものと考えられる仕上げ跡が認められ、敦賀発電所2号機のモックアップ試験結果の供試体No.6と同様の表面状態であった。
 敦賀発電所2号機のモックアップ試験にて得られている供試体No.6の表面残留応力は、周方向引張応力363MPa、軸方向引張応力577MPaであることから、高浜発電所3号機の当該溶接部においても、PWSCC発生の感受性があると考えられる約300MPaを超える引張残留応力が発生していたものと推定される。
また、グラインダ施工(研削)後に、バフ施工を行った場合の表面残留応力は、圧縮応力になることが確認されている。
 なお、一般的にSG入口管台のような円筒形状では、内圧により発生する応力は周方向の方が軸方向より大きい。
(7)文献調査結果
 600系ニッケル基合金溶接部の割れに関する文献調査を行なった結果、次のとおり類似部位での損傷事例が確認されている。
a.原子炉容器出口管台溶接部
米国V.C.Summer発電所での漏えい(2000年10月発見)、スウェーデンRinghals発電所3,4号機でのUT指示(2000年8月、2000年9月発見)が報告されている。
b.加圧器管台溶接部
敦賀発電所2号機での漏えい(加圧器逃がし弁用管台漏えい、安全弁用管台UT指示;2003年9月発見)が報告されている。

割れはいずれも軸方向のデンドライト境界に沿ったひび割れであり、V.C.Summer発電所と敦賀発電所2号機の調査では、割れは溶接金属内を進展し、低合金鋼との境界、セーフエンドとの境界でほぼ停止していた。これらの原因は、いずれも補修溶接を行なったことによる高い引張残留応力により発生したPWSCCと推定されている。
c.SG入口管台溶接部
美浜発電所2号機のSG入口管台溶接部において機械加工を行ったことにより、内表面に高い引張残留応力によるPWSCCが発生(2007年9月発見)したことが報告されている。
また、敦賀発電所2号機において手直し溶接部のグラインダ施工(研磨)の部位またはグラインダ施工(研削)およびバフ施工による仕上げでグラインダ施工(研削)の跡が残った部位の内表面に高い引張残留応力が発生し、PWSCCが発生(2007年10月発見)したことが報告されている。
d.PWSCC発生応力
600系ニッケル基合金溶接部のPWSCCの発生に関しては、SCC定荷重試験が実施されており、1次冷却材環境下において応力約300MPa以上でPWSCCが発生している。
(8)その他の損傷形態調査結果
延性割れ、疲労割れ、腐食の可能性についても調査したが、使用環境条件、使用材料等に異常はなく、これらが割れの原因とは考えられない。
また、製作時の溶接不良や溶接欠陥についても記録や実機調査結果から原因となるものは認められなかった。
(9)調査結果のまとめ              
a.スンプ観察結果から、割れはデンドライト境界に沿っており、これまで手直し溶接補修跡が認められた国内外の600系ニッケル基合金溶接部で確認されているPWSCCと同様の様相が認められた。
b.型取観察結果およびモックアップ試験結果等から、割れの認められた部位の残留応力は、PWSCC発生の感受性があると考えられる応力値約300MPaを超える引張残留応力があったものと推定される。
c.運転履歴および溶接部の材料確認、設計・工事記録の調査の結果、問題がないことおよび水質管理状況の調査の結果、有害な元素について管理されていることを確認した。
d.文献調査結果から、SG入口管台損傷は製作過程において内表面の表層部に高い残留応力が発生し、PWSCCが発生・進展したものと推定されている。
高浜発電所3号機においても、敦賀発電所2号機で確認されたものと同様に、手直し溶接部のグラインダ施工(研磨)の部位またはグラインダ施工(研削)およびバフ施工による仕上げでグラインダ施工の跡が残った部位の内表面に高い引張残留応力が発生し、PWSCCが発生・進展している可能性も考えられる。

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事象の原因  SGの製作時、入口管台とセーフエンドを600系ニッケル基合金で溶接し、内表面をグラインダ施工(研削)とバフ施工による仕上げを行った後、一部、手直し溶接とグラインダ施工(研磨)による仕上げを行ったことにより、内表面に高い引張残留応力が発生し、PWSCCが発生したものと推定される。
 また、発生した割れは、運転時の応力等により軸方向に進展したものと推定される。
原因分類 設備不備>製作不完全
事象の種別 時間依存性のある劣化事象
火災に該当しない事象

再発防止対策

再発防止対策 1.SG入口管台溶接部の内表面全周を切削し、浅い割れを除去した後、必要によりグラインダにて部分的に深い割れを除去する。なお、割れが除去されたことについては浸透探傷試験により確認する。
2.その後、深い割れを除去した部位について、600系ニッケル基合金で肉盛溶接を行った上で溶接部内表面全周をより耐食性に優れた690系ニッケル基合金により肉盛溶接を行い復旧する。なお、念のため、当該部の残留応力低減のためバフ施工を実施する。

上記の対策工事を行っていく中で、今後サンプル採取箇所を選定した上でサンプルを採取し、実機におけるPWSCCについての知見拡充を図っていく。
水平展開の検討 水平展開状況

参考資料

添付資料
プレスリリース

プラント状況

発生時運転モード モード6 発生前の電気出力 0[MW]
発見の方法 作業・点検
発電所への影響 停止期間延長
発電停止時間

分析用情報

外部への放射能の影響 なし
保安規定違反 なし
検査指摘事項の
深刻度(SL)判定結果
運転上の
制限外への移行
なし
自動で作動した安全系 なし 手動で作動した安全系 なし

関連情報

同発電所で発生した
同様事例
その他