【登録日】
2007/09/25
【更新日】
2008/12/01

基本情報

通番 9321 報告書番号 2007-北海道-T007
情報区分

トラブル情報

報告書状態 最終報告
事象発生日時 2007年 09月 19日 15時 49分 事象発生日時(補足) (原子炉の手動停止を判断)
会社名 北海道電力株式会社 発電所 泊発電所1号
件名 泊発電所1号機ディーゼル発電機起動不能に伴う原子炉手動停止について
国への法令報告根拠 実用炉規則19条の17第2号 国際原子力
事象評価尺度(INES)

発生箇所および発生時の状況

事象発生時の状況 泊発電所1号機(加圧水型軽水炉,定格電気出力57万9千kW,定格熱出力一定運転中)において,泊発電所原子炉施設保安規定(以下,「保安規定」という。)にもとづき,9月18日,1B−非常用ディーゼル発電機(以下,「1B-D/G」という。)の定期試験を行っていたところ,13時37分に「シリンダ冷却水圧力異常低」により自動停止し,動作不能となった。
これに伴い,保安規定にもとづき,残りの1A−非常用ディ
ーゼル発電機(以下,「1A-D/G」という。)が動作可能であることを確認するため,同日確認運転を実施し,異常は認められなかった。
しかし,9月19日,再度確認運転を実施したところ,15時49分,1A-D/Gが起動不能となり,非常用ディーゼル発電機が2基とも動作不能となった。このため,保安規定第72条に定める運転上の制限を満足していないと判断し,保安規定第86条に従い,13時間以内にモード3へ移行することとした。同日18時50分に負荷降下を開始し,9月20日0時27分発電停止,同日2時38分にモード3となった。
なお,両非常用ディーゼル発電機とも前回の定期試験(1A-D/G:9月4日,1B-D/G:8月21日)および9月18日の1A-D/G確認運転においては,特に異常は認められなかった。また,今回の事象による外部への放射能の影響はなかった。

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事象発生箇所
【設備】  電気設備  【系統】  非常用ディーゼル発電機系
【機器1】 ディーゼル発電機装置>非常用ディーゼル  【部品1】 その他(調速装置)

原因

原因調査の概要 1.現場における調査結果
(1)事象発生時の状況
a.A号機起動時,回転数135rpm,電圧約3kV程度まで上昇後,徐々に回転数が低下し,停止に至った。要因としては以下が考えられた。
(a)始動空気系統異常
(b)燃料系統異常
(c)機関各部の固着
b.B号機起動時,電圧確立(6.9kV)後,周波数が51.0Hzから45.0Hz以下へ,電圧が6.9kVから徐々に低下し,「シリンダ冷却水
圧力異常低」により自動停止した。要因としては以下が考えられた。
(a)燃料系統異常
(b)シリンダ冷却水系統異常
(2)現場調査項目について上記状況を踏まえ,要因分析図に従い,系統構成,起動手順,機関本体,始動空気系統,シリンダ冷却水系統および燃料系統について調査を行った。
(3)系統構成
A,B号機とも,非常用ディーゼル発電機の起動時の系統構成は運転要領どおりであり,正常であることを確認した。
(4)起動手順
A,B号機とも,事象発生時は運転要領にもとづいた起動操作が行われていることを確認した。また,運転要領記載事項を再調査した結果,問題点はないことを確認した。
(5)機関本体
a.シリンダ内の水の滞留
A,B号機とも,ターニング時にインジケータ弁から水分排出がないことを確認しており,水の滞留によるピストンの動作不良は確認されなかった。
b.待機状態不良
A,B号機とも,起動前の潤滑油圧力・温度,シリンダ冷却水圧力・温度は通常範囲にあることを確認した。
c.固着
A,B号機とも,ターニングおよびエアランでシリンダや主軸等機関各部の固着はなかったことを確認した。
(6)始動空気系統
a.空気だめ
A,B号機とも,起動前に始動用の空気だめ圧力を確認した結果,空気圧は正常であった。
b.空気系統の漏えいおよび閉塞
(a)A号機起動不能時においても機関は135rpmまで回転していることから,始動用空気は正常に供給されており,漏えいおよび閉塞はないことを確認した。
(b)B号機自動停止時においても機関は一旦所定の回転数まで到達していることから,始動用空気は供給されており,漏えいおよび閉塞はないことを確認した。
(7)シリンダ冷却水系統
a.系統内空気だまり
A,B号機とも,ベンティングを実施し,空気だまりがないことを確認した。
b.系外への漏えいおよび閉塞
A,B号機とも,系外への漏えいおよび閉塞は確認されなかった。
c.シリンダ冷却水ポンプ
A,B号機とも,シリンダ冷却水ポンプ(機関付きポンプ)の固着がなく運転状態に異常がないことを確認した。
(8)燃料系統
a.燃料圧力不足
A,B号機とも,燃料油供給ポンプ(機関付きポンプ)運転状態を調査した結果,異常は確認されず,起動状態において燃料系の圧力は正常であり,燃料供給圧力の低下がないことを確認した。また,系統ベンティング操作にて空気排出がないことを確認した。
b.燃料系の閉塞
A,B号機とも,各ベント弁等からベント操作を行い,燃料油の排出状況を確認し,スラッジ等による詰まりがないことを確認した。
c.燃料系の漏えい
A,B号機とも,事象発生時において燃料系の漏えいは確認されなかった。
d.燃料噴射ポンプ
A,B号機とも,燃料噴射ポンプについて手動操作をした結果,固着はなく正常に動作することを確認した。また,燃料リンクとの取付は正常であり,リンク機構に追従して円滑に動作することを確認した。
e.燃料リンク機構
A,B号機とも,燃料リンクを調速装置から切り離し,手動操作で円滑に動作することを確認した。
f.調速装置
(a)A号機調速装置のロードインジケータ(燃料供給量を示す)は通常エアラン時および起動時においてしばらくは6〜7程度を示すが,起動前のエアラン時に3からすぐに0に,また,起動時に4からすぐに0に戻ることが確認されており,調速装置が正常に作動していない可能性があった。
(b)B号機調速装置のロードインジケータは通常エアラン時しばらくは6〜7程度を示すが,自動停止後に原因調査のため行ったエアラン時に4からすぐに0に戻ることが確認されており,調速装置が正常に作動していない可能性があった。
g.調速装置作動油分析
A,B号機とも,調速装置で使用していた作動油の成分を分析した結果,特に異常は認められなかった。なお,ミリポア分析の結果,有意な異物は確認されなかった。以上の結果から調速装置が原因であると考えられたため,調速装置を工場に輸送し,調査を行った。
2.工場における結果
調速装置について,要因分析図にもとづき調査を行った。
(1)構成部品の結果
a.パワーピストン
A,B号機とも,調速装置のパワーピストン表面に傷がないことを確認した。また,異物の噛みこみ等がなく,問題ないことを確認した。
b.シャットダウンソレノイド
A,B号機とも,調速装置のシャットダウンソレノイドの作動状況は良好であり,スティック,発錆がないことを確認した。
c.パイロットバルブプランジャ
(a)A号機パイロットバルブプランジャを調査した結果,コントロールランドの下側に摺動傷を確認した。
(b)B号機パイロットバルブプランジャを調査した結果,異物の噛み込み,損傷は確認されなかった。
d.油面計
(a)A号機油面計を調査したところ,油面計の接続ネジ部に損傷が確認された。
(b)B号機油面計を調査したが,接続ネジ部を含め損傷は確認されなかった。
e.その他の各軸,リンク,ピン,レバー,ピストン弁
A,B号機とも,損傷,摩耗,固着等の異常がないことを確認した。
(2)各設定値等の確認
A,B号機とも,調速装置の前面パネルのダイヤル設定値を調査した結果,設定値は妥当であり,またツマミ類の動きも良好で,損傷がないことを確認した。
(3)異物の調査
a.A号機調速装置内部から,金属片(最大6mm程度)が4個見つかった。これらについて成分分析を行った結果,3個はアルミニウム,1個は鉄が主成分であることがわかった。A号機で油面計のネジ山が損傷していたことおよび調速装置内部で見つかった金属片のうち3個の成分が一致することから,油面計取付部のネジ山が異物になったものと考えられる。
b.B号機調速装置内部から,白色の異物が3個(小さなものは多数)見つかった。これらについて成分分析を行った結果,シールテープと成分が一致することを確認した。なお,泊発電所1号機の調速装置について記録が残っている過去のメーカでの分解点検では,シールテープなどの異物は確認されなかった。

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事象の原因 3.推定原因
(1)A号機泊発電所では,調速装置点検に伴う非常用ディーゼル発電機への取付,取外し作業時の揚重作業において,ロープとの干渉による油面計の損傷を避けるために,油面計を脱着している。油面計の脱着により,ネジ部にバリが発生し混入した可能性がある。当該調速装置の履歴より,異物の混入時期は平成19年8月7日の油面計取付時と推定される。異物の寸法と各部の隙間寸法を確認した結果,異物はコントロー
ルポートへ流入する可能性がある。異物は前回の非常用ディーゼル発電機停止時にコントロールポートからパイロットバルブプランジャと回転ブッシングの間に入り,パイロットバルブプランジャの動きを阻害したものと推定される。パイロットバルブプランジャは,回転ブッシングの中で上下することにより調速装置出力軸に直結するパワーピストンに油圧を与えるための調整をするための部品であり,正常に作動しないと,調速装置が正常に機能しない。上記のように,異物がパイロットバルブプランジャの動きを阻害した結果,調速装置が正常に作動せず,ディーゼル機関への燃料供給が行われず,起動失敗に至ったものと推定される。
(2)B号機泊発電所では調速装置の接液するねじ込み継手に対して,シールテープを使用している。今回の事象を受けて,調速装置の作業者から聞き取りの結果,泊発電所では5回程度と多目に巻きつけていることを確認した。メーカで分解点検した調速装置はシールテープを使用せずこれらの継手を接続したり,清掃された状態で閉止栓をして発送している。その後,現地でねじ込み継手に対して,シールテープを使用し接続するが,巻き数,位置,状態について具体的な手順を定めておらず,これらの状態によってはシールテープが調速装置に混入しやすい状況となっていた可能性は否定できない。このように,シールテープが異物となり,パイロットバルブプランジャと回転ブッシングの間に入り,パイロットバルブプランジャの動きを阻害したものと推定される。これにより,A号機の事象と同様に燃料が供給されなくなり,機関回転数低下によりシリンダ冷却水ポンプ(機関付きポンプ)の回転数が低下し,「シリンダ冷却水圧力異常低」に至ったものと推定される。

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原因分類 その他>その他
事象の種別 時間依存性のない事象(偶発事象を含む)
火災に該当しない事象

再発防止対策

再発防止対策 A,B号機とも調速装置が原因となっていたことから,調速装置を工場で分解点検し,異物を除去した。
なお,A号機の調速装置についてはパイロットバルブプランジャおよび油面計を交換,B号機については油面計を交換した。
水平展開の検討 不要

参考資料

添付資料
プレスリリース

プラント状況

発生時運転モード モード1 発生前の電気出力 588[MW]
発見の方法 試験・検査
発電所への影響 手動停止
発電停止時間 262時間 33分

分析用情報

外部への放射能の影響 なし
保安規定違反 なし
検査指摘事項の
深刻度(SL)判定結果
運転上の
制限外への移行
9月18日 13:37 1B-ディーゼル発電機定期試験において起動不能となり運転上の制限逸脱を宣言
9月19日 15:49 1A-ディーゼル発電機について保安規定で要求される起動試験を実施したところ起動不能と判断
9月19日 18:50 泊発電所1号機負荷降下開始
自動で作動した安全系 なし 手動で作動した安全系 なし

関連情報

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